8ミリ通信No.10 そこには、懐かしいあの頃の、私がいた
そこには、懐かしいあの頃の、私がいた
〜瓦礫の中の記録フィルムを蘇らせた男とナトコの物語〜

 『今日から夫のことを「あなた」と呼んでみよう』と解説が入り、つづいて画面は恥ずかしそうに逃げ回るミカン畑の夫の姿が映し出される。 ー映画を見終わって、「私は、あなたって呼んだ」「私は呼ばないよ」などと普段、ほとんど話をしないお年寄りたちが楽しそうにしゃべり出したり、思い出したりして涙ぐむ人もいた。
 これは戦前や昭和二十〜三十年代の懐かしい暮らしや風景の記録フィルムを出張上映する、「ナトコの映画館」でのひとコマです。平成二年にスタートしたこの映写活動はこれまでに実に100回以上の無料出張上映会を開き、おじいちゃんやおばあちゃんの笑いと涙をさそいました。
ナトコの映画館」を運営する代表の佐々木隆信さんの本業はCM監督です。「サントリーレッド」「ピップエレキバン 会長編」や「エバラ焼き肉のたれ」シリーズなど千本以上の作品を手掛けてきました。

10_07.jpg
フィルムを点検する佐々木さん

 今から十二年前、佐々木さんはCMの撮影でよく使用していた都内の映画撮影スタジオが取り壊されることになり、仲間と解体されてゆく建物の記録にキャメラを向けていました。その時、眼前にとび込んできたのは瓦礫の中から現れたたくさんのフィルム缶の山でした。16ミリ缶三千本位はあったであろうそのフィルムが水をかけられ、建物もろとも壊されているのを見かね、何とかしなければと頼みに頼み込んで解体を中断してもらい、私費をはたいてどうにか約千本を取り出しました。
 誰が撮ったんだろう、誰が写っているんだろう、運命的な出会いであったこのフィルムは4トントラックにいっぱい。スプリングが音をたててしなるほどであったと言います。

10_08.jpg
救出されたフィルムたちの一部

真っ赤に錆びたフィルム缶の山を前にして佐々木さんは、授かったこの古くはあるが貴重な映像をその時代に生きた人々に見てもらい、次の世代に残そうとその強い思いから、九十年に(株)ナトコを設立。CM・企業の販売促進のビデオやカタログの制作と平行してこのフィルムの保存、修復、上映に取り組みます。
 社名の「ナトコ」は戦後に連合国軍総司令部(GHQ)が日本の民主主義教育を広めるために巡回映画会で使った16ミリ映写機NATCOに由来します。中国から引き揚げ、山形県米沢で幼少の頃を育った佐々木さんは、夏の夜、小学校の校庭で天幕に映し出される映画より、たくさんの虫が集まるこの映写機に魅了されたそうです。

 「ナトコの映画館」の出張上映は北は青森県、西は広島県、そして2001年4月には遠く海外ブラジルで初めての上映となりました。おもな上映場所は老人福祉施設、公民館や村の集まりなど、高齢者だけでなく子供たちも交えて行われることもよくあります。

10_06.jpg
上映会でのひとコマ

16ミリフィルムの修復・テレシネが幾分か進み現在はビデオによる上映がほとんどになってきました。ただ見るだけでなく、子供時代、青春時代のことを回想することで元気になるようにと7〜8分の昔懐かしい映像が映し出されると途中でビデオを止めて「田植えや稲刈りはどうでしたか」「洗濯や洗剤はどうしてましたか」など佐々木さんの問いかけを繰り返しながら進められます。約一時間位のプログラムで構成され、最後に「夕焼け小焼け」「ふるさと」などの童謡を皆で一緒に歌います。

10_10.jpg  10_12.jpg

 各地から集めたフィルムは現在約一千五百本。しかしその大半は人手や資金の問題から手つかずのままになっています。「しまっておくだけでは意味がありません。お年寄りたちが体験した文化や知恵の詰まったこのフィルムを子どもたちにも伝えて行きたい。」と佐々木さん。将来を担う子どもたちにはアナログとデジタルの両輪が必要であり、これらの映像を最大限活用した、「昔のあそびキャラバン」と題した全国巡回映写のプロジェクトをスタッフたちと計画中であると語ります。


16ミリ映写機NATCOについて(推定) =
10_09.jpg

GHQが戦後、日本に約1,300台をアメリカの映画と共に寄贈した軍用のサウンド映写機。本体重量約30キロとスピーカ一部、映写ランプ100V1,500W。現在、山形県内の博物館に保存展示を確認。
アメリカ・シカゴ製。


10_13.jpg

 ビデオ3巻セット「ナトコの映画館」も発売中。大正時代から昭和初期にかけての、日本各地の生活や風景、明るく逞しい子供達の姿、童謡・民謡・祭などを多数収録。
 特別付録に昭和初期のアニメーション集も付いて価格は一万二〇〇〇円。


 三年前、読者から中学時代の思い出NATCO映写機の情報を知りたいとの申し出があり、その後(株)ナトコの佐々木隆信さんと出会うこととなり今回、取材の機会を得ました。フィルムについての話題、調査などありましたらどしどしお寄せ下さい。
(2003年1月取材 吉岡 博行)


8ミリ通信No.10 page,5
スポンサーサイト



2011-04-01 17:15 | 「ナトコの映画館」 | Comment(0) | Trackback(0)
Comment
コメントを書く
#

管理者にだけ表示
Trackback
Trackbak URL:http://old8mm.blog49.fc2.com/tb.php/136-37cd6f5e
09
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
--
>>
<<
--